【相続対策に賃貸経営が役立つ理由】
・相続税評価額が低くなる
・収益を活用できる
・団信を利用すればローン残債がなくなる
「マンション・アパートへの投資は相続対策に役立つ」と言われていますが、実際になぜ賃貸経営が節税になるかご存じでしょうか。
賃貸経営のメリットを上手く活用するには相続税の資産評価の仕組みや、節税に有利な物件の条件を理解することが重要です。本記事では相続の視点から見た賃貸経営のメリットや注意点などを解説します。
【目次】
1.「相続税」と「相続」から見た賃貸経営
賃貸経営の効果①相続税評価額が低くなる
賃貸経営の効果②特例を利用できる
賃貸経営の効果③将来的な収益・価値が見込める
賃貸経営の効果④ローン残債ゼロの状態で相続できる
相続人にとって嬉しい不動産とは
2.一棟と区分、どちらが節税になる?
立地・空室リスク
修繕リスク
売却の間口
3.賃貸経営の相続ケーススタディ
ケース:40代男性Aさん
4.「相続」に向いているのは区分
理由①物件だけでなく部屋も選べる
理由②異なる物件(部屋)に分けられる
理由③所有権を分けられる
理由④部屋ごとに所有・売却を選択できる
理由⑤長期的な資産価値が見込める
5.まとめ
1.「相続税」と「相続」から見た賃貸経営
賃貸経営は相続に向いている資産運用手段であることは既に知られてきていますが、具体的にどのようなメリットがあるかご存じでしょうか。
賃貸経営の効果①相続税評価額が低くなる
賃貸物件は「土地・建物の権利の一部を他人に貸している」と考えられるため、相続税評価額は通常の不動産より低くなります。
そのため、賃貸経営は相続税の支払額を減らすのに有効な対策として用いられることが多いです。
相続税評価額の計算方法
相続税評価額は「土地」「建物」に分けて計算します。
賃貸経営の効果②特例を利用できる
規模の小さいアパートやマンションなどを所有している場合、小規模宅地等の特例を利用して土地の相続税評価額をさらに減らすことができます。
本特例を利用する場合、賃貸向けの土地は「賃貸事業用の宅地」として200平米までの土地に対して50%減税されます。
ただし、相続開始前3年以内に取得した宅地に対してはこの特例が適用されないため、節税目的で賃貸経営を検討している場合は早めに手を打つことが大切です。
賃貸経営の効果③将来的な収益・価値が見込める
賃貸経営の大きなメリットは相続された子や孫世代にとって価値のある資産を残せることです。物件そのものの資産価値だけでなく、賃貸経営によって得られる継続的な賃料収入も引き継ぐことができます。
例えば生前贈与で物件を早めに取得した場合、その賃料収入を将来の相続税支払いに充てることもできます。将来得られる賃料収入を親の相続資産ではなく、子や孫世代の直接収入にできるのは賃貸経営の魅力です。
賃貸経営の効果④ローン残債ゼロの状態で相続できる
ローンで物件を購入する場合、多くの方は団体信用生命保険(団信)に加入することになります。
団信は契約者が死亡した時点で残債がゼロになる仕組みなので、相続人にはローン残債を負わせず相続が可能です。
相続人にとって嬉しい不動産とは
相続人の視点で「相続して嬉しい不動産」とは、端的に言えば上記の効果を最大限に発揮できる条件を持った不動産です。つまり、相続時に負債や税の負担が少なく、将来的に多くの利益が見込める物件を選ぶことが重要です。
2.一棟と区分、どちらが節税になる?
先述した通り、賃貸経営は相続税の節税に有効な手段の一つです。物件の購入方法によらず、相続税対策を行いたい方にはおすすめできます。
節税としてのメリットをどちらが有効に発揮できるかはケースバイケースで、どちらが節税になるか一概には言えません。区分と一棟の違いをカテゴリごとに考えてみましょう。
一般的にはアパート=一棟購入、マンション=区分購入というイメージが根強く、実際の取引事例でも上記の傾向が強いです。そのため、ここでは一棟=アパート1棟の購入、区分=都心マンションの1室購入として、それぞれの特徴・利点を比較します。
立地・空室リスク
相続後の将来的な収益性を考慮する場合、空室リスクへの対策が必要不可欠です。
一棟アパートの場合、地域のニーズに合った戦略を取ることが重要になってきます。例えば生エリアではシンプルで安価な部屋を提供し、ファミリー向けエリアでは広めの部屋や駐車場付きの部屋を用意するなど、オーナー自身の経営方針によって空室リスクを低減させることが可能です。
投資向けの区分マンションは主要な都市にアクセスしやすい立地に建てられることが多く、元から賃貸需要が安定しているケースが多いです。特に単身世帯をターゲットに向けた物件は高い入居率を維持できる可能性が高いでしょう。
修繕リスク
一棟アパートでは、建物全体の修繕がオーナーの責任となります。外壁塗装や屋根の補修、共用部分(階段・廊下など)のメンテナンス費用が一括して発生するため、修繕費の規模が大きくなる傾向です。大規模修繕では数百万円~数千万円単位の費用が発生するため、事前に計画的な積立が求められます。
一方、区分マンションでは、外壁やエントランス、共用部分などの修繕費用は管理組合が計画的に積み立てている修繕積立金から支払われます。そのため、オーナーが直接大きな金額を負担する必要がない点は安心です。
売却の間口
先述したように、売却時に得られる収益も重要な資産価値の一つです。
「売却しやすいか」「売却した際に購入者は見つかりやすいか」という視点で比較しましょう。
一棟アパートは物件価格が高額になる場合やエリアの賃貸需要が低い場合、購入者を見つけるのに時間がかかる可能性があります。
安定した賃貸収入が得られるか、管理コストが適切かなど、投資利回りを重視した購入者が多いため、空室率が高い物件は査定額が低く売却しづらくなる恐れがあります。
区分マンションは市場価格やエリアの需要と施設のグレードが価格に大きな影響を与えます。
特に賃貸需要が高い都市部の区分マンションは安定した収益性を示すケースが多く、間取りなど条件によっては自己利用目的で売却できるケースもあるため、売却の間口はかなり広くなります。
3.賃貸経営の相続ケーススタディ
前章で相続時に負債や税の負担が少なく、将来的に多くの利益が見込める物件を選ぶべきであるとお話ししましたが、実際にはどのようなケースが想定されるでしょうか。
将来的に相続する側の立場に立って、どんな物件を相続するのが向いているのか考えてみます。
ケース:40代男性Aさん
Aさんは年下の兄弟が1人いる40代の既婚男性で、将来的に父親から1億円ほどの資産を相続される予定です。現在高校生の子どもがいるため、教育費を考えるとリスクの高い投資はなるべくしたくないと考えています。
70代の父親とは相続を見据えた話をするようになりましたが、Aさんは普段仕事で忙しく、資産管理や相続の準備に手間をかけられません。運用の手間が少なく管理を一任できる、なおかつ遺産分割時に兄弟となるべく争わずに済むような運用方法を望まれています。
現在子どもの教育費などの支出が多いAさんには、リスクが比較的小さくいざというとき換金できる資産が最適です。また、相続後自分自身に万が一のことがあった時は自分の子どもに引き継げるよう、長期的価値のあるものが望ましいでしょう。
4.「相続」に向いているのは区分
ここまでの解説で述べてきたように、一棟と区分にはそれぞれ異なる利点があります。
しかし、相続に向けて新たに購入することを検討している場合は区分マンションの賃貸経営を始めるのがおすすめです。相続視点で区分マンションがおすすめな理由をいくつかご紹介します。
理由①物件だけでなく部屋も選べる
区分マンションは、物件の中からさらに最適な部屋を選択できる自由度がある点が大きな魅力です。同じ物件内でも、日当たりの良い部屋や高層階、賃貸需要が高い間取りなど、条件の良い部屋だけを選んで購入することができます。
一棟アパートでは建物全体を一括で購入する必要があるため、部屋によって賃貸需要にばらつきが出る場合があります。区分マンションは物件全体の条件に左右されることなく、収益性の高い「良い部屋」だけを選べるため、リスクを抑えつつ効果的な運用が可能です。
理由②異なる物件(部屋)に分けられる
区分マンションは異なる物件を複数所有できるのが大きな特徴です。
例えば複数のエリアに分散して区分マンションを所有することで、災害などのリスクを分散しながら相続対策を進めることができるようになります。
区分マンションは1戸ごとに資産として独立しているため、複数戸購入すれば先ほどのケーススタディのように兄弟など相続人が複数いても公平に分割することが可能です。
理由③所有権を分けられる
ケーススタディにおいて取り扱ったように、相続時に分割しやすいかどうかは非常に重要なポイントです。
一棟の場合は共有名義での相続になるケースも多く、運用方針の違いや処分時の意思統一が難しいなどの問題が生じることがあります。
区分マンションの場合は1戸ごとに所有権を分けて相続できるため、相続人それぞれが独立した形で資産を管理・売却することが可能です。また賃貸経営の目的だけでなく、必要に応じて自己利用など他の利用方法を選択することができるのも大きなメリットです。
理由④部屋ごとに所有・売却を選択できる
区分マンションは部屋単位で所有権が分かれているため、必要に応じて一部の部屋を売却して現金化することができます。
相続人の数と所有する戸数が異なる場合も売却したい部屋だけ市場に出すことができるため、争うことなく資産を分割できます。
理由⑤長期的な資産価値が見込める
特に都心のマンションなど資産価値の高い物件は、家賃収入だけでなく売却時の利益も見込めるため、長期的な資産価値が見込めます。
先ほどのケーススタディのように、相続後さらに次世代へ資産を受け継いでいくことを考えていらっしゃる方は多いと思います。
節税はもちろん大切ですが、それ以上に将来的にどの程度価値が見込める物件を選ぶかが非常に重要です。そういった意味では区分は大きなメリットのある運用方法だと言えます。
5.まとめ
賃貸経営は相続対策における有効な手段の一つで、評価額の圧縮などの面で大きなメリットがあります。一方で事業としての成功が見込めないと「子孫に資産を残す」という最も重要な目的を果たせなくなってしまう点には注意が必要です。
区分マンションは賃料収入を安定して得られる傾向にあるため、相続時の負担を減らすだけでなく相続後にも価値のある資産を受け渡したい場合には最適です。ちなみに一棟アパートは所有している土地を上手く活用したい場合などに効果的です。
最終的には、資産を受け継ぐ側の立場に立ち、「相続してよかった」と思ってもらえるような物件を選ぶ視点が大切です。どのような物件を、どのような方法で受け継ぐか決め、なるべく早い段階から行動に移すことをおすすめします。