相続した不動産を売却したい時どうすればいい?税金の仕組みなど基礎知識を解説

【不動産売却の基礎知識】

・かかる税金は主に「譲渡所得税」「印紙税」「登録免許税」の3つ
・相続登記は3年以内が義務化
・特例、控除が適用できるかチェックしよう

相続した不動産を所有し続ける必要はなく、むしろ利用しない場合は売却を検討するケースも少なくありません。
例えば、「親が住んでいた家を相続したものの、すでに自分の持ち家があるため使い道がない」「相続税の支払いが難しい」「兄弟間で公平に分割するために現金化する必要がある」「相続不動産が遠方にあって管理・有効利用できない」といった理由で売却を選択する方は多いのではないでしょうか。

不動産は所有しているだけで固定資産税・管理費用・修繕費用などが必要になるため、利用予定がない場合は売却した方が負担を減らせるかもしれません。

ただし、売却によって得た利益には税金が発生する可能性があります。原価となる不動産の取得費や諸経費の額によって税額・利益幅が変動する点には注意が必要です。余計な負担を避けながら賢く売却するために、相続不動産の基礎知識を頭に入れておきましょう。

【目次】

1.不動産売却の基礎知識①譲渡所得の仕組み
 譲渡所得の計算方法
 譲渡所得税とは
2.不動産売却の基礎知識②その他の税金
 印紙税
 登録免許税
3.不動産売却の基礎知識③相続登記の手続き
 登記にかかる費用
 2024年に相続登記が義務化
4.不動産売却の基礎知識④各種税金の特例・控除
 相続税の取得費加算の特例
 譲渡所得の3,000万円特別控除
5.まとめ

1.不動産売却の基礎知識①譲渡所得の仕組み

マンションや一戸建て、土地などの不動産を売却して得た利益は「譲渡所得」と呼ばれます。
相続した不動産を売却する際にはこの「譲渡所得」の仕組みを理解することが重要です。

譲渡所得の計算方法

譲渡所得を求める際の計算式は以下の通りです。

不動産の売却価格-(取得費+譲渡費用)=譲渡所得

上記の計算式を活用して売却時にかかるコストを適切に把握することで、税負担の見通しを立てやすくなります。

取得費とは

不動産を購入したときの代金や諸費用を取得費として計上し、その分を売却金額から差し引いて譲渡所得を計上します。取得費に含まれる主な費用は以下の通りです。

・土地・建物の購入代金
・建築代金
・仲介手数料
・設備費・改良費(リフォーム、増築、設備の導入など)
・取得時にかかった税金(登録免許税、印紙税、不動産取得税など)
・借主を立ち退かせるための立退料 など

取得時の状況や不動産の用途により、取得費に加算できる費用の内訳は変わります。

取得費の計算方法

取得費は建物と土地を別々に計算します。建物の取得費は購入価格から減価償却費を差し引いた金額となり、土地の取得費は、建物の価額を差し引いた残りの金額として算出されます。特に賃貸や事業用不動産の場合は、被相続人の確定申告書で減価償却費の未償却残高を確認することができます。

なお取得費が分からない場合、売却金額の5%を取得費として計上することが認められています。ただしこの場合は実質「売却価格の95%」が譲渡所得とみなされ課税対象となるため、税負担が大きくなる可能性がある点には注意しましょう。
売却時の税負担を抑えるためにも、被相続人は売買契約書など取得費を証明できる書類を適切に保管し、相続時に引き継げるようにしておくことが重要です。

譲渡所得税とは

譲渡所得税とは、譲渡所得(資産を売却して得た利益)に対して課される税金です。具体的には、住民税と所得税(復興特別所得税含む)をまとめたものを指します。
不動産を売却して譲渡所得が発生した場合、その金額に応じて一定の割合で課税される仕組みになっています。

所有期間に応じて税率が異なる

譲渡所得は給与所得や事業所得とは別に計算される「分離課税」の仕組みを取っています。
不動産の所有期間によって「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」の2種類に分けられ、それぞれ異なる税率が適用される点には注意が必要です。

項目 長期譲渡所得 短期譲渡所得
所有期間 5年超 5年以下
実効税率(合計) 20.315%
※復興特別所得税を含む
39.63%
※復興特別所得税を含む
(所得税) 15% 30%
(住民税) 5% 9%

復興特別所得税は、東日本大震災の復興を目的として導入された税金で、所得税の一部(所得税額×2.1%)として2037年までの支払いが義務付けられています。
所有時期によって税額が変動するため、後述する控除の適用可否と併せて売却タイミングを慎重に検討することが重要です。

2.不動産売却の基礎知識②その他の税金

不動産を売却する際には、譲渡所得税のほかにもさまざまな税金が発生します。主な税金は以下の通りです。

印紙税

不動産を売却する際は買い手と売買契約を結ぶために「売買契約書」を作成します。この売買契約書に対して課税されるのが印紙税です。
印紙税は売買契約を結んだ際に納める必要があり、物件の売却金額に応じて税額が決められています。税額に応じて収入印紙を購入し、契約書に貼付して消印して納めることになります。

登録免許税

不動産を売却する際に必要な相続登記手続きには登録免許税がかかります。これは、抵当権の抹消登記や所有権移転登記などを行う際に支払う税金です。通常は司法書士に登記費用として支払い、司法書士が代理で納税する形式が取られます。

登録免許税の金額は売却する不動産の評価額や売却価格に基づいて算出されます。相続により取得した不動産の所有権移転登記の場合、次の計算式で求められます。

土地・建物それぞれの登録免許税=固定資産税評価額×0.0004(0.4%)
※千円未満は切り捨て

相続登記についてはこの後詳しく解説します。

3.不動産売却の基礎知識③相続登記の手続き

登記とは、法務局が管理する登記簿に土地や建物の所在地、所有者、担保の有無や借入額などを記録する制度です。不動産の権利関係を明確にし、第三者に対して証明する目的で必要となります。

相続によって不動産を取得した場合、相続登記と呼ばれる手続きが必要です。具体的には亡くなった人の名義(被相続人)で登記されていた土地や家屋を自分(相続人)の名義に変更する「所有権の移転登記」を行います。

登記にかかる費用

相続登記には上述の登録免許税がかかるほか、必要書類の取得費用が発生します。また手続きを司法書士に依頼する場合、その報酬も必要になります。
相続登記は手続きが複雑で専門知識が求められるため、司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。依頼する場合は登録免許税の他に依頼料(報酬)も必要となります。

2024年に相続登記が義務化

2024年4月1日の法改正により相続登記が義務化され、相続人は「相続財産の中に不動産があることを把握した日から3年以内」に相続登記を申請することが義務付けられました。

正当な理由なく期限を過ぎると10万円以下の過料が科される可能性があるため、速やかに手続きを進めることが重要です。

特に相続した不動産を売却する予定がある場合、相続登記を行わないとスムーズに取引が進まない可能性があるため早めの手続きが推奨されます。

4.不動産売却の基礎知識④各種税金の特例・控除

不動産売却時に一定の条件を満たせば、特例や控除によって税負担を軽減できる可能性があります。
売却前に制度の内容を確認し、あらかじめ必要な手続きを行っておくことが重要です。

相続税の取得費加算の特例

この特例を適用すると、不動産売却時に相続税の一部を取得費として加算できるため、譲渡所得税の負担を軽減することができます。

特例を適用するためには、以下の3つの条件をすべて満たしている必要があります。

・相続または遺贈によって取得した財産である
・相続時に相続税が課され、納税している
・相続開始日の翌日から3年10か月以内(相続税申告期限の翌日から3年以内)に売却している

「取得費加算の特例」を使った場合の計算方法

取得費加算の特例を利用すると譲渡所得の計算時に相続税の一部を「取得費加算額」として控除できるため、結果として譲渡所得税の負担を軽減できます。

特例を適用した際の計算式は以下の通りです。

譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用+取得費加算額)

譲渡所得の3,000万円特別控除

相続した不動産に居住していた場合、売却時の譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。この制度を利用すれば譲渡所得税の負担を大幅に軽減でき、場合によっては税額をゼロにすることも可能です。

ただしこの特例の対象は「日常的に居住して生活の拠点となっていた不動産」に限られるため、別荘として使用していた場合やこの特例を受けるためだけに一時的に居住した場合には適用されません。

適用要件を満たしているかを事前に確認し、確実に控除を受けられるように手続きを進めることが重要です。

適用の条件

・昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された建物である
・相続または遺贈(包括遺贈)により、空き家とその敷地をともに取得したものである
・区分所有建物登記がされていない建物である
・相続開始の直前まで被相続人以外が居住していなかったこと

敷地のみの場合

所有者が居住していた家屋、または居住しなくなった家屋を取り壊してその敷地を売却する場合でも、以下の要件を満たしていれば3,000万円特別控除の適用が可能となります。

・その土地の譲渡契約が家屋を取り壊した日から1年以内に締結されている
・家屋を居住用として使用しなくなった日から3年を経過する年の12月31日までに譲渡されている
・家屋を取り壊してから譲渡契約の締結日までの間にその土地を貸付けやその他の用途で使用していない

空き家の場合

特例の対象となる相続した家屋は、原則として被相続人が相続開始の直前まで居住していたことが条件でした。しかし、一定の要件を満たした場合に限り、老人ホームなどに入居していたケースも対象に含まれることとなりました。

基本の4条件を満たした上で以下の要件も満たすことにより、空き家の3,000万円特別控除を受けることができます。

・売却日までに一定の耐震基準を満たすか、売却日の翌年2月15日までに耐震基準を満たすリフォーム工事を行う
・更地として売却する場合は、売却日の翌年2月15日までに建物を解体する
・相続時から売却時まで、事業用・貸付用または居住用として使用していない
・売却代金が1億円以下である
・売却した空き家等について、他の特例の適用を受けていない
・同一の被相続人からの相続または遺贈で取得した空き家等について、この特例の適用を受けていない
・空き家等の売却先が親子や夫婦などの特別な関係に該当しない

条件を満たしているかを事前に確認し、適用できる場合は速やかに手続きを進めることが重要です。

5.まとめ

相続した不動産を売却する場合、良い値段で売れたとしても諸条件によってかかる税金が異なる可能性があります。事前に譲渡所得税や各種特例に関する基礎知識を把握し、自分のケースに適用できる制度を確認しておくことが大切です。

売却時に少しでも税負担を軽くするために、事前に準備を整えて適切な対策を講じましょう。