2019年7月、マンションの大規模修繕のポイントや修繕工事で失敗しないための考え方について、セミナーでご紹介しました。
今回は、そのセミナーのポイントを凝縮して、大規模修繕工事が必要な理由と失敗しない方法を解説します。
【目次】
1.マンションと大規模修繕
2.マンションの劣化要因とその種類
物理的劣化
機能的劣化
社会的劣化
3.資産価値の低下を防ぐ大規模修繕のポイント
ポイント①.修繕項目と修繕周期
ポイント②.長期修繕計画を立てる
ポイント③.修繕、改良、改修を使い分ける
4.大規模修繕工事で失敗しないために
5.大規模改修工事の流れ
6.まとめ
1.マンションと大規模修繕
マンションなど建築物は、完成と同時に劣化が進行していきます。そのため、マンションの所有者(主に管理組合)には、適切な時期に改修を行い、劣化を防ぎ資産価値を維持していくことが求められています。また、住民が安心して住める環境を整えることは、建築基準法第8条でも定められており、最低限の大規模修繕は義務でもあります。
資産価値の低下を防ぐには、10年~20年周期で訪れる大規模修繕の際に、「修繕」「改良」を的確に判断し修繕工事を実施する必要があります。
2.マンションの劣化要因とその種類
マンションが劣化するため大規模修繕が定期的に必要になりますが、劣化の種類は「物理的劣化」「機能的劣化」「社会的劣化」の3つに分けることができます。
物理的劣化
物理的劣化とは、建物の経年劣化のことであり、錆やタイルの剥がれ、防水機能の低下などが挙げられます。
主に紫外線や酸性雨、二酸化炭素、化学物質、気温の変化といった地球環境が原因で生じます。
マンションの劣化と聞いて、まず思い浮かべるものが、この物理的劣化ではないでしょうか。
住民の生活を守るためにも、物理的劣化が見られる箇所の修繕は必須といえます。
機能的劣化
機能的劣化とは、設備機器の技術的進歩の遅れによる劣化のことであり、防犯カメラや宅配ボックス・インターホンの性能低下などが挙げられます。
例えば宅配ボックスの場合、以前はゴルフバックが入るサイズも必要とされていましたが、ゴルフ人口の低下やネットショッピングの普及により、小さいサイズを多く設置する方が好まれる傾向に変化してきました。
社会的劣化
社会的劣化とは、時代の変化に対応できていない建物の老朽化のことであり、外観の陳腐化や間取りのズレ、電気容量の不足などが挙げられます。
機能的劣化と少し似ていますが、社会的劣化は建物そのものが時代の変化に対応しきれていない状況を示しています。
3.資産価値の低下を防ぐ大規模修繕のポイント
マンションの資産価値を落とさないためには、計画的な大規模修繕が重要です。
ここからは、大規模修繕のポイントを3つご紹介していきます。
ポイント①.修繕項目と修繕周期
まずは、国が定めている修繕項目と修繕周期を知ることが大切です。
例えば、鉄部塗装は4~6年、給水ポンプ取替は12年、タイル補修クリーニングは10~12年、エレベーター取替は30年、屋上防水は10~12年など、目安が定められています。
この基準をベースに、建築された時期や劣化具合、周辺環境の厳しさを考慮して、詳細な修繕計画を立てていきます。
ポイント②.長期修繕計画を立てる
大規模修繕は、10~20年に1度必ず訪れるため、長期的な計画を最初に立てておくことが大切です。
機能的劣化・社会的劣化は事前に想定できないため、詳細なスケジュールは時期が来たら考えることになりますが、大まかな時期と予算は事前に設定しておきます。
この計画に併せて、修繕積立金を毎月集金することで、修繕費が足りないという事態を防ぎ、適切な大規模修繕を実現できます。
ポイント③.修繕、改良、改修を使い分ける
大規模修繕には、「修繕」「改良」「改修」という3つの考え方があります。
修繕とは、部材や設備の劣化部の修理や取替えを行い、劣化した建物又はその部分の性能・機能を実用上支障のない状態まで回復させることであり、主に物理的劣化に対応するものです。
一方で改良とは、建物各部の性能・機能のグレードアップ(マンションを構成する材料や設備を新しい種類のものに取替えることや、新しい性能・機能等を付加することなど)のことであり、機能的劣化や社会的劣化に対応します。
改修とは、修繕と改良を的確に使い分け、建築物の性能を改善する変更工事のことであり、大規模改修では回数を重ねるたびに改良の割合を大きくしていくことが、資産価値を維持するためのポイントになります。
4.大規模修繕工事で失敗しないために
先ほど大規模修繕そのもののポイントをご紹介しましたが、大規模修繕工事で失敗しないためには、修繕委員会の設置が必要不可欠です。
マンションには、管理組合や組合長が在籍していますが、通常は1~2年で任期満了となり交代していきます。
しかし、大規模修繕工事は準備期間も含めると3年は必要であり、安全だけでなく資産価値の維持向上まで考えると、専門委員会を立ち上げるほど重要な業務だといえます。
他にも資金計画や施工会社の選定など、重要なポイントはありますが委員会の立ち上げが大規模修繕工事のスタートといえるでしょう。
5.大規模改修工事の流れ
大規模修繕工事は、お手洗いや休憩所といった共通仮設を設置するところから始まり、調査、清掃、工事、解体という流れになっています。
一般的な大規模修繕工事は、50戸規模で3ヶ月、100戸規模で4ヶ月ほど必要になり、次のような10工程に分けることができます。
①:共通仮設の設置
②:仮設足場の組立
③:調査・下地補修
④:シーリング工事
⑤:洗浄清掃
⑥:外壁補修工事
⑦:鉄部塗装工事
⑧:防水工事
⑨:仮設足場解体
⑩:工事完了
6.まとめ
マンションは、完成と同時に劣化していくため、適切なタイミングで大規模修繕をしていく必要があります。
大規模修繕では、修繕と改良をバランスよく実施する改修が必要であり、そのためには各設備の劣化目安を基に、長期的な計画を立てなければいけません。
また、大規模修繕工事は、マンションの資産価値を維持向上するためにとても重要なものですので、管理組合とは別に専門の委員会を立ち上げることをおすすめします。