不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

消費者物価指数でみる賃料上昇の現状と新築投資用物件について

2月28日に総務省より公表された2月分の東京都区部消費者物価は、生鮮食品を除くコア指数は前年同月比プラス2.2%となりました。
東京都区部消費者物価指数は、2週間後に公表される全国消費者物価指数の先行指標として注目されますが、事前の予想よりもやや低い数字となりました。しかし、依然として2%を超える物価上昇が続いています。

東京都区部消費者物価と全国消費者物価指数の推移

東京都区部消費者物価と全国消費者物価指数の推移

上記の図は、22年1月以降の全国と東京都区部の消費者物価指数の推移を示しています。(全国の25年2月分は執筆時点です)

総務省が公表する消費者物価指数はこの2つで、東京都区部が先に公表されるため、先行指標と位置付けられています。住居費の寄与率をみれば東京都区部分では27.6%、全国では22%と5~6%ほどの違いがあります。住居費のほとんどは家賃と帰属家賃(自宅の想定家賃)(多少、その他費用も含まれます)ですので、家賃が高い、また住宅価格が高い、東京都区部では、寄与率が高いことも頷けます。

図をみれば、22年の春ごろから前年同月比でプラスとなっています。つまりこのころから物価上昇(インフレ)がはじまり、23年には一時4%を超えるような時期もあり、24年以降は2%代半ばで推移しています。また、24年の後半から上昇幅が拡大しています。これは円安と人件費の上昇が背景にあると思われます。また、2つのグラフを比較すると、傾向にはそれほど大きな違いはありませんが、多少ですが全国の値の方が、伸び率が大きくなっていることがわかります。

価格の新しいステージ

約3年に渡り2%以上の物価上昇が続いており、我々国民もすでにこのところの上昇した新しい価格に慣れてきた感もあります(気持ち的には高いな、と思いつつも)。

「物価の優等生」という言葉がありますが、これは物価上昇期においても、それほど大きく上昇してこなかったモノを言います。例えば卵はその代表格でしたが、その卵の値段も上昇してきています。周りを見渡せば、我々が普段お金を使うもので、「値上がりしていないものはない」、という感じさえ受けます。
物価上昇期にも値上がりしないモノが「優等生」か、どうか、には議論の余地があると思いますが、バリューチェーンを担う各企業の努力のたまものと思いますが、しかし、そんな「優等生」達も、昨今の原材料費やエネルギー価格上昇には耐えられず、「優等生」の地位を捨てつつあります。

我々は、「これまでの価格感覚」をすでに変更しており、「価格の新しいステージ」に適合するライフスタイルを構築しつつあるのでしょう。

家賃の上昇はさらに顕著に

このように、「あらゆるものの価格が上昇」している中で、当然ながら住宅賃料(=家賃)も上昇傾向にあります。

2月分の東京都区部消費者物価指数をみれば、家賃は前年同月比でプラス0.7%、24円2月以降の過去1年を振り返っても全て前年同月比でプラスとなっています。また、2020年の年間平均を100とすれば、102.9となっており約3%上昇しています。

これを、帰属家賃を除く住居(つまり賃貸住宅の賃料)で見れば、前年同月比でプラス1.0%となっています。

賃貸住宅の家賃は、全国の主要都市で上昇していますが、東京都区部でもその傾向は顕著に表れています。

賃料があがれば、不動産価格は上がる

実需用の住宅価格(中古住宅)は、周辺の同類物件の取引事例に基づく「取引事例法」での算定がメインですが、投資用の不動産価格は、基本的に収益還元法で算出されます。収益還元法での不動産価格=(賃料等収入―経費)÷還元利回り で計算されます。
そのため、経費と還元利回りが一定と仮定すれば、賃料等の収入増は価格増につながります。

「価格が上がるから賃料があがる」と考える方もいるかもしれませんが、賃貸用不動産では、「賃料が上がるので価格が上がる」と考えるのが一般的です。

賃料上昇期の新築投資用物件

新築物件の場合、積算法(原価法)での価格算定となるのが基本ですが、しかし、たとえ原価が上がっても、賃料がその分上乗せできなければ、購入意欲が減退し売れ行きが悪くなります。そのような時にはデベロッパーは開発を控えるか、「家賃の上昇が見込める、あるいは安定的に逓増する」物件の開発に絞り込むことになります。

このような背景から近年は新築の投資用マンションの供給は少なくなっています。しかし、先に述べたように、いま開発し販売している物件は、「将来的にわたり見通しの良い物件」に限っていると考えられます。

たしかに、以前に比べて新築投資用のマンションは高くなっていますが、「その分の価値がある」と考えるのがよいのではないでしょうか。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。