不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

賃貸住宅のキャップレートは史上最低水準続く! 最新キャップレートの解説

5月29日に(財)日本不動産研究所から「第50回不動産投資家調査」を公表されました。
この調査は半年ごとに行われ、アセットクラスごとに投資家の「期待利回り」=キャップレートや投資環境についてアンケート調査を行い集計したものです。

アンケートの対象は、アセットマネジメント会社・デベロッパー・商業銀行・投資銀行・生命保険会社・不動産賃貸業などで、いわば不動産投資の最前線で業務を行っている方々です。
投資家の「期待利回り」を示すキャップレートの動向からは、不動産投資への意欲、また不動産価格動向が伺えます。
今回は、第50回「不動産投資家調査」(調査時点:24年4月)のデータをもとに、現状のキャップレート動向を賃貸住宅にフォーカスして解説します。

最新のキャップレートの状況

24年4月時点のキャップレートの動向は、アセットごとに異なりますが、概ね「横ばい」と「低下」が混在する結果となっています。
 東京都心のオフィスや賃貸住宅は、過去を振り返っても最も低い状況が続いており、その歴史的な低水準が続いているという状況といえます。

全体的に見れば、東京など大都市部は「横ばい」で地方都市では「低下」という状況となっています。特に郊外型ショッピングセンターでは全国主要10都市全てでキャップレートは低下となりました。
また、コロナ下で苦戦していたビジネスホテルでは、全国的に低下し、東京は4.3%となりコロナ禍前の最低値(4.4%)を更新しました。
供給過剰と言われていた物流施設でも、多くのエリアで低下しました(一部は横ばい)。
なお、賃貸住宅については後ほど詳しく解説します。

キャップレートの推移で分かる投資家の投資意欲

不動産投資における投資対象不動産の価格算定(あるいは目安価格の算定)は、収益還元法に基づいて行われます。
具体的には、「年間収益÷還元利回り=不動産価格」を計算した上で、周辺地域での取引事例や、個別要因を加味して価格を計算します。

個別性の強い不動産においては、物件ごとの還元利回りを算出することは難しいため、目安としてキャップレート(Capitalization Rate)が用いられことが一般的です。
キャップレートとは、「不動産投資における利回りの指標」の一つで、投資家の「期待利回り」(=これくらいの利回りがあればいいな)のことを指します。
当然ながら、キャップレートは、エリア(立地)や不動産の種類(オフィスビル、ワンルームマンション、ファミリーマンション、商業施設など)によって、変わってきます。
計算式に当てはめれば、収益が一定として、利回りが下がれば価格は上昇局面(投資意欲旺盛)ということができ、逆に利回りが上がれば、価格は下落局面(投資意欲減退)にあると言えます。つまり、「キャップレートの推移をみれば、投資意欲がうかがえる」ということができます。

賃貸住宅ワンルームタイプのキャップレート

賃貸住宅の期待利回りは、全国的に最低水準が続いているという状況でした。
全国で最も低いとされるエリアの1つである東京(城南エリア)では、前回調査(調査史上最低)から横ばいの3.8%となりました。
ここでの、ワンルームタイプは25~30㎡、築5年未満、駅徒歩10分以内、総戸数50戸程度の1棟物件の想定です。半年ごとに行われる本調査ですが、前々回調査では、史上最低を更新していましたが、前回そして今回は横ばいという結果になりました。賃貸住宅投資の期待利回りは引き続き最低の水準となり、賃貸住宅への投資意欲は引き続き旺盛で賃貸用住宅の価格は引き続き上昇基調にあるということになります。

全国主要10都市では、前回調査と同数の6都市が横ばいとなりましたが、大阪・神戸・広島・福岡の西日本の4都市では0.1ポイント低下しました。
期待利回りが最も低い地域の一つで、立地プレミアムのベースとされる東京城南地区(目黒区・世田谷区、渋谷・恵比寿へ電車などで15分圏内想定)では、キャップレートは3.8%で前回と同じ、想定物件の取引利回りは3.5%でこちらも前回と同じとなっています。
また、東京城東地区(墨田区・江東区、東京・大手町まで電車などで15分圏内想定)では、期待利回りは3.9%、取引利回り3.6%でこちらも前回と同値となりました。
この数字だけ見れば、都市部における賃貸住宅需要は安定が続く見通しのため投資意欲は高いものの、価格上昇には天井感があるようです。

また、「期待利回り」と実際の「取引利回り」には、未だ0.3%の開きがあり、ここには「投資家の投資意欲の旺盛さ」が伺えます。

全国主要都市のワンルームタイプのキャップレートを2004年からの推移をみれば、図1のようになります。

ファミリータイプの状況

一方で、賃貸住宅(1棟)のファミリータイプ(注:想定は広さ50㎡~80㎡、それ以外はワンルームタイプと同じ)のキャップレートは、調査10都市のうち半分の5都市(仙台・京都・大阪・神戸・福岡)でいずれも0.1ポイント低下しました。こちらも、西日本での低下が目立っています。

ベースとなる東京・城南地区をみれば、22年10月 4.0% →22年4月 3.9% →23年10月 3.8% →24年4月 3.8%と推移しており、引き続き過去最低が続き、前回調査と同様にワンルームタイプと同じ値となっています。
また、想定物件の実際の取引における利回りは3.5%、でこちらもワンルームタイプと同じとなっています。

投資物件としては、安定的に賃貸住宅需要があり、つまり空室が出にくく、賃料のボラティリティが小さいこともあって手堅いとみられるワンルームタイプの方が、キャップレートは低い傾向にありました。
しかし、このところの動向をみれば、ファミリータイプのキャップレートが低下している都市が多くなっています。

まだまだ投資意欲は高い

「今後1年間の不動産投資に対する考え方」についての回答では、「新規投資を積極的に行う」の回答は95%(前回も95%)と大きな変化(横ばい)はなく積極姿勢が続いています。一方「新規投資を控える」の回答は5%(前回も5%)と、こちらも横ばいとなりました。
また、マーケットサイクルについては、東京・大阪とも今がピークとする回答が最も多くなりましたが、「半年後」についても、「ピーク」とする回答が最も多く、高値で好調な状況がまだしばらく続きそうと見ている投資家が多いようです。
しかし、一方で長期金利を中心に金利上昇がみられています。今後の金利動向を心配しつつも、不動産市況はまだしばらく活況が続きそうと思われます。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。