不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

【重要】知っておきたい!変わる不動産広告の表記について(前編)

【目次】

―不動産広告の適正化を推進する業界団体
―不動産の表示規約とは?
―改正で規制が強化された項目

22年9月より、不動産売買や賃貸における、チラシやパンフレットなどの表記基準が変わります。
改正は、これまであいまいだった表記基準を明確に示したもので、不動産公正取引協議会が推進したものです。

不動産広告の適正化を推進する業界団体

不動産公正取引協議会連合会は、全国の不動産会社が加盟している不動産公正取引議会を取りまとめる団体です。
この業界団体の目的は、不動産広告の適正化を図ることによって、不動産業界の社会的信用を向上させるため、広告の点検・調査・指導を行っています。

このような業界の自浄努力により、不動産業界はお客様に安心して取引を行っているように進化を続けているというわけです。
同連合会はこのたび、「不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)」および「表示規約施行規則」の改正案を、公正取引委員会および消費者庁の認定・承認を受けて、いずれも2022年9月1日から施行することを発表しました。
新しい「表示規約」の施行を発表したことによって、加盟不動産会社は今後、この規約を遵守する必要があります。
多くの不動産系企業が加盟しているため、事実上、業界全体の変更となるでしょう。

不動産広告の表示規約とは?

表示規約とは、不動産の公正な競争を実現するため、「不動産会社が住宅の売買や賃貸物件の賃貸について広告を行う際に、消費者をだましたり、誤解を与えたりするような曖昧な表記をさせない」規定が設けられているわけです。
ここでのポイントは、この規約は、「一般消費者を対象としたもの」であることと、「居住用不動産」の取引に関する広告表示を規制の対象としていることです。
そのため、「事業者を対象」とした「ビル、店舗、工場、倉庫といった事業用物件」の取引に関する広告表示は売買、賃貸問わず表示規約のルールは適用されません。(注:景品表示防止法や宅建業法の規制は受けます)

この規約は全65ページ(A4)にも及び、たいていの項目が網羅されています。
たとえば、【新築】と表記できる物件は、「建築工事完了後1年未満であって、居住の用に供されたことがないものをいう」とあり、竣工後1年を超えたものは、たとえ未販売(未成約)のもので、誰も使っていなくても表記できません。
こうした主に広告表記に使われそうな項目が、ズラリと記載されています。その一部がこの度改正されたわけですが、「駅から徒歩〇分」というような、不動産広告で必ず見るような表記の改正のため、業界では注目を集めているわけです。

今回、改正された表示規約では、強化する規定と緩和する規定の2つが示されています。
順にみていきます。

改正で規制が強化された項目

まず強化する規定から見てみましょう。
第一に、「交通の利便性・各種施設までの距離または所要時間について」です。
これまでは販売物件数(土地の場合区画数)が2つ以上ある物件の場合、最も近い住戸(区画)からの徒歩所要時間や距離を表示することになっていましたが、これからはそれに加えて、最も遠い住戸(区画)からの徒歩所要時間や距離も表示することになりました。

たとえば最も近いA棟から駅までの所要時間が5分で、最も遠いH棟からの所要時間が7分の場合、「〇〇駅まで徒歩5分から7分」と表示する必要があります。
1つの広大な敷地に複数棟が建てられているような大型分譲マンションの場合、駅から最も近い棟と、最も遠い棟とでは、距離においてかなり差が出る場合あります。

それなのに、最も近い棟からの所要時間だけを表示していては、誤解が生じかねないからです。(ちなみに、徒歩1分は道路距離80mで換算するルールです。改正はナシ)

また、所要時間だけでなく、距離を表示する場合も同様です。たとえば「市役所まで250mから350m」というように表示しなければなりません。

なお、これは細かい改正点ですが、駅と建物の間を徒歩で移動する際にかかる所要時間を表示するにあたって、「駅から建物までの徒歩時間」を表示するのではなく、「建物から駅までの徒歩時間」を表示するように統一されました。
これは、物件によっては行きと帰りの徒歩ルートが同一ではなく、それによって所要時間に差が生じる場合もあると考えられるからです。

まだまだ、いろんな重要な改正が行われましたので、後編に続きます。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。