不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

ワンルームマンション販売におけるDX化とIT重説・契約について

不動産業界は、DX(デジタルフォーメーション)化が大きく遅れている業界といわれてきましたが、新型コロナウイルスの影響により、猛スピードで改革が進んでいます。
ワンルームマンション販売においても、確実にDX化の流れは進んでいくものと思われます。
その大きなポイントが、不動産取引のオンライン化です今回は、ワンルームマンション(投資マンション)分野におけるDX化の現状とこれからの進展について考えます。。

不動産業界のDX化の現状

ワンルームマンション販売においては、電話での営業やDMを送ってアプローチするというマンパワーを使った営業スタイルが主流でした。
今ではだいぶ減りましたが、企業によっては今でもこうした活動を行っているようです。

また売買仲介業などは、業界内での人的なつながりで業務が進むことが多いため、デジタル化が向いていないのではとも言われてきました。

しかしそれは、時代の流れから大きく遅れを取る考え方であり「根本から見直さなければならない」ことでした。昨年から大きな影響を与えている新型コロナウイルスの影響が、こうした考え方を一気に変える要因となりました。

ワンルームマンション(デベロップメント~販売)業界におけるデジタルシフトの現状を、フェーズごとに見ていきましょう。

ファーストフェーズ:買い手(客)の集客
ポータルサイトなどによる物件紹介、本サイトのようなオウンドメディアによる啓蒙活動を通じたネットでの問合せなど、デジタル化がある程度進んでいる領域です。また、セミナーからの見込み客アプローチでは、かつてはリアルセミナーが中心でしたが、新型コロナウイルスの影響もあって、いまではオンラインが主流となっています。
しかしながら、冒頭に書いたように、いまだに電話営業を行っている企業もあります。

セカンドフェーズ:客の案内(内見等)
VR内見、オンラインモデルルーム見学など。以前から少し見られましたが、新型コロナウイルスの影響で、営業行為、移動行為そのものに制限がかかることで大きく進みました。  実需物件に比べて、あまり細かく物件を見る購入者が少ない投資用物件、また距離の遠いところに在するセカンドハウス用物件などでは定着しつつあります。

サードフェーズ:契約関連
これまでは、法律で対面による契約など規定がありましたが、重要事項説明書の説明、契約書の締結などにおいてテレビ電話などを活用することがみとめられつつあります。(以下、オンラインでの重要事項説明をIT重説と表記)

IT重説本格運用までの取り組み状況

賃貸借契約のIT重説は、平成27年8月から平成29年1月までの社会実験を経て、平成29年(2017年)10月から本格運用が始まりました。すでに3年経過し、新型コロナウイルスの影響が加速させる結果となり、かなり浸透してきました。
また、売買取引については、法人間売買は平成27年8月から、個人を含む売買は令和1年10月から社会実験が行われ(現在も継続中)、社会実験期間の延長、検証討論会を経て、令和3年(2021年)4月より、法人間売買、個人を含む売買ともに本格運用が始まっています。
IT重説の大まかな流れ(準備など)は、以下の通りです。

事前に買主(売主)からの同意を得ます。また相手方のIT環境の確認を行います。
その上で、重説書面の電子化(電子書面交付)については後述しますが、本格運用は22年5月から(予定)ですので、事前に重要事項説明書を送付します。
そして、いよいよIT重説の実施になります。取引士証の提示を画面上で行い、相手方の本人確認を行い、重説の中身を説明します。

重説・契約書の電子書面交付について

賃貸契約における電子書面交付の社会実験は令和元年10月から、売買においては令和3年3月から社会実験が進んでいました。先日(21年5月)デジタル改革関連法案が成立、この中で宅建業法の改正も盛り込まれ、重説・契約書の電子公布が可能となりました。22年5月に本格運用される見込みです。ただ、社会実験の件数が伸び悩んでおり、最終的な要件がまだ定めにくい状況にあるということです。

IT重説のメリット、社会実験をふまえて

国土交通省が導入の際に公表しているように、IT重説のメリットは、以下の4つに集約できます。簡単に羅列しておきます。

1) 海外を含めて遠隔地顧客の移動の問題解消
2) 契約に係る費用等の負担軽減
3)重要事項説明を行う日程調整の幅が増える
4)来店などが困難な場合でも本人への説明が可能

などが挙げられます。

IT重説は定着するのか?

IT重説は徐々に定着すると思われますが、いくつかのはハードルがあると思われます。

1つめは、これまでの社会実験期間に行われたアンケート結果を見ると(以下割合はアンケート結果による)、6割以上は投資目的の物件売買であり、個人の実需物件で定着するのかどうか。
2つめは、1億円を超える物件が2%程度であり、高額物件でも行われるようになるのか
3つめは、IT重説の説明相手方の年齢をみると、60歳以上の方は約6%程度で、比較的IT環境に不慣れと思われる世代が相手となり得るのか。また、重説を行う側(不動産業界)の年齢についても同様のハードルがあると思えます。

まとめ

ワンルームマンション販売つまり投資用の物件においては、社会実験の結果を見ても、IT重説、契約を含めた、不動産売買におけるオンライン化は浸透してきています。また、この傾向は、投資用マンションの販売においては加速するものと思われます。
このようにワンルームマンション業界は、不動産業界のDX推進の旗振り役になると思えます。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。