海外から日本に訪問する「訪日外国人」、いわゆる外国人観光客の数が、近年急激に増加しています。
新型コロナウイルス感染症の影響が緩和し、国内の観光業が完全に活況を取り戻しつつあることは言うまでもありません。実際、2024年3月の訪日外国人数は約300万人と、1ヶ月の来訪数としては過去最高の数値を更新しました。
なぜ今訪日外国人が増えているのか、そしてなぜ日本が選ばれているのか、その理由について、日本を取り巻く背景をまじえながら見ていきましょう。
【目次】
1.前年比約80%増、増加する訪日外国人
東アジアにおける訪日需要
各国の訪日需要
2.訪日外国人が増加している理由は?
①円安による影響
②ビザの緩和
③航空運賃が安い
④日本の注目度が高まっている
3.訪日外国人増加は不動産業界にとっても追い風となるか
地価の上昇と賃貸需要の拡大
民泊の増加と問われるマナー
海外投資家からの不動産投資が増加
4.まとめ
1.前年比約80%増、増加する訪日外国人
JNTO(日本政府観光局)の調査では、2023年3月の訪日外国人数は約308万人。新型コロナウイルスの影響を受けていた2020年~2023年と比較して増加しているのはもちろん、2019年以前と比較しても最も多い人数を記録しました。
4月以降も過去最高の訪日外国人数を連続で更新しており、コロナ前の状態を完全に取り戻した活況を見せています。
東アジアにおける訪日需要
東アジア圏、特に韓国・中国・台湾からの訪日外国人の数が多い傾向はコロナ前と変わらず続いています。
ただ、上記3ヶ国からの来訪数が訪日外国人全体の約60%を占めていた2019年3月と比較すると、2024年同月は割合としては低下し、約50%に収まりました。
割合が減少した原因は他エリアの観光客数増と中国の観光客数減であると推察されます。
韓国、台湾、加えて香港ではコロナ前(2019年)よりも来訪数が増加しており、特に台湾からの観光客は2019年3月から35%増と顕著な伸びを見せました。
推計値は584,400人、中国(452,400人)を追い越して全体の2位となる来訪数です。
各国の訪日需要
2019年と比較して特に増加が著しいのは欧米周辺諸国からの訪日外国人数です。アメリカ(+64.3%)、カナダ(+46.2%)、イギリス(+46.1%)、ドイツ(+66.1%)、イタリア(+63.1%)など主要国で顕著な増加が見られます。
メキシコに至っては2019年同月比170.0%と2倍以上来訪数が増えていることが分かります。
参考:日本政府観光局『訪日外客統計(2024年3月推計値)』
2.訪日外国人が増加している理由は?
訪日外国人が増加している理由はいくつか考えられます。
①円安による影響
現在、為替レートが歴史的な円安傾向にあります。
円安になると外国人にとってはより安い費用で日本の観光を楽しむことができます。これも訪日外国人増加の背景のひとつとなっているようです。
②ビザの緩和
訪日外国人にとって壁になる「ビザ」ですが、近年の規制緩和によりビザ取得が以前と比べ容易になりました。
特に東アジア、東南アジアからの訪日外国人に対するビザは規制緩和が大幅に進んでおり、より容易に日本を訪問できるようになったことが、訪日外国人数の増加の後押しになっていると考えられます。
③航空運賃が安い
海外旅行をしたくても航空運賃が高いことはネックとなります。
近年はLCC(格安航空会社)や原油価格の下落などにより、航空運賃が以前より安くなっており、それによって日本を訪れたくても費用がネックであった外国人による訪日が増加したことも理由のひとつとなっています。
また航空便の増加や就航路線の拡大なども訪日外国人増加に影響しているといえるでしょう。
2010年には羽田空港が国際化し、それまでより来日にあたる選択肢が広がりました。
海外通貨での航空運賃に関しては、円安の影響で今後値下がりする予想が立っているため、航空業界は今後さらに日本を訪れやすい環境になっていくものと推測されます。
④日本の注目度が高まっている
日本の文化や芸術などがインターネットなどを通じ広く世界に発信されるようになり、海外からの日本の注目度は近年高まっています。
インバウンド需要を取り込んだ外国人向けの各種サービスが整い始めており、より訪問しやすくなっているのもプラスとなっているようです。
3.訪日外国人増加は不動産業界にとっても追い風となるか
日本を訪れる外国人の増加はインバウンド需要の復調につながりつつあります。この傾向が不動産業界にどのような影響があるのか見ていきましょう。
地価の上昇と賃貸需要の拡大
インバウンド需要の増大は、特に外国人観光客に好まれやすいエリアの地価上昇を招きます。
実際、2024年3月に発表された国土交通省の「令和6年地価公示」では、インバウンド需要の高い浅草エリアを含む台東区における商業地の地価が前年比9.1%の大幅な伸びを見せています。
エリアによってはインバウンド向けのホテル用地と居住向けのマンション用地が競合するケースもあるため、特に観光業がさかんなエリアでは住宅地を含む不動産物件全体の価格が上昇すると推測されています。
また、インバウンド需要の高いエリアでは経済が活性化し、海外・地方からの長期滞在者が増加し、周辺の賃貸需要が増加すると考えられます。
賃貸需要の増加に伴って賃料の上昇も見込めるため、安定した家賃収入が期待できるでしょう。
長期的には海外からの移住、セカンドハウスの増加も見込まれます。
民泊の増加と問われるマナー
ここ数年、インバウンド需要を取り込んだ不動産投資として民泊が大きな注目を集めています。
コロナ禍で一時期大不況に陥った民泊業界ですが、規制緩和に伴いかつての賑わいが戻ってきました。
民泊は通常の不動産投資と比較して高利回りで運用できる物件として人気がありますが、その一方で収益の不安定さ・管理の難しさが度々問題になります。
住宅宿泊事業法(民泊新法)により、1年の営業日数の上限は原則180日と制限されており、民泊を行う不動産の立地の行政区でそれぞれ制限(※)があるため、思うように収入が得られないという声も多いです。
民泊は通常家賃として借主から安定的に得られる収入が宿泊料金に依存するという側面があり、立地や競争の激化などにより収入がなくなるリスクが高まります。
※制限の一例
東京都千代田区 | 文教地区・学校周辺等の地域では日曜日昼~金曜日昼まで民泊営業禁止 |
東京都港区 | 文教地区・住居専用地域では家主不在型のみ民泊実施可能期間の指定あり |
目黒区 | すべての地域で日曜日の正午~金曜日の午前まで民泊営業禁止 |
荒川区 | 全ての地域で土曜日・日曜日のみ民泊実施可能 |
このように、宿泊者に人気のエリアは宿泊日数以外にも多くの制限があります。
また、民泊の騒音やごみの問題で近隣住民から苦情が来るなどのトラブルが問題視されています。
今後インバウンド需要の増加に比例して利用マナーに関する問題はさらに増えていくでしょう。
投資にあたってはこれらのリスクを踏まえたうえでしっかりと戦略を練る必要があります。
海外投資家からの不動産投資が増加
コロナ禍前は東京オリンピックなどの要因により訪日外国人数が増え続けており、比例するように海外投資家によるインバウンド投資が増加傾向にありました。コロナ禍の規制により一時は落ち込んでいましたが、緩和後にこれまで溜まったリベンジ需要に火が付き、円安の追い風でさらに加速しています。
規制緩和以降の訪日外国人増加を受けて、不動産業界はさらなる活況を見せると推測されています。
4.まとめ
訪日外国人の増加に伴い、東京のいたるところで再開発やサービスの整備が進み、生活利便性も向上していく傾向にありそうです。
訪日外国人が増加し、世界中の人々が日本に触れる機会が増え、不動産の分野においても海外からの移住やセカンドハウス、投資需要が増えています。
外国人の不動産購入への参加は、マーケットにとっても追い風です。
今後ますます外国人が日本を注目し、それを受け入れる様々な受け皿が充実すれば、不動産投資にも前向きな影響があるといえるのではないでしょうか。