不動産投資に影響のある金利は、政策金利(≒短期金利)と長期金利です。24年は、これら2つとも上昇し、不動産市況に大きな影響があると思われましたが、それほど大きな影響は出ませんでした。今回の原稿は、その背景と今後の見通しについて考えてみたいと思います。
2種類の金利が与える影響
不動産投資において金利のベースとなる政策金利(かつては公定歩合と言いました)の動向は、市況に大きな影響を与えます。
政策金利が上昇し、多くの方が借り入れで選択する変動金利があがれば、支払総額はもちろん月々の支払額が多くなりキャッシュフローにも影響があります。
また、政策金利とともに長期国債金利の動向も不動産投資に影響があります。長期国債金利は固定金利に影響を与えるだけでなく、投資家の期待利回りを示すキャップレートのベースとなります(キャップレートは理論上、リスクフリーレート=長期国債金利+不動産におけるリスクプレミアム)。
24年は政策金利が2度上昇
2024年は不動産市況に大きな影響を与える金融政策に大きな変更がありました。3月にはマイナス金利が解除され政策金利(の誘導目標)が0%となり、また7月末の日銀金融政策決定会合では政策金利が0.25%(同)となり、2008年12月以来、約16年ぶりに「金利のある世界」となりました。
政策金利の上昇は短期プライムレートの上昇、そして変動金利の上昇へとつながるのが常ですが、店頭金利(基準金利)では多少の上昇気配は見られましたが、実際の借入金利ではそれほど大きな動きはありませんでした。例えば、大手銀行の住宅ローンの変動金利の状況をみれば、基準金利はそれまで(しばらくの間)2.475%が続いていましたが、10月以降は2.625%と0.15%上昇しました。一方、実際の借入金利は基準金利から「優遇分」を引いて0.375%~0.4%台と大きな変化なく推移しています。
政策金利は、その後10月末、12月18-19日に行われた日銀金融政策決定会合でも据え置きとなりました。
物価上昇は続く
一方で物価の上昇は22年以降上昇が続いています。日銀の展望リポート(最新は24年10月公表)では、24年は2.5%、25年の見通しは2.1%、26年は1.9%となっており物価上昇は続く見通しとなっています。物価上昇が続くと金利上昇の可能性が高まりますが、現状では需要>供給による物価上昇というよりは、資源費や原材料費、そして人件費などの上昇によるコストプッシュ型の物価上昇の側面が強いため、なかなか金利を上げにくい状況のようです。そのため、25年の政策金利は、多少上昇すると思われますが、上昇幅は現状の0.25%から+0.25%~0.5%の範囲に留まると思われます。
実質金利は、今年低下した
借り入れを行う際の金利は多少上昇していますが、「実質金利」でみれば、以前よりも低い状況にあります。
実質金利とは、名目金利から物価変動の影響(予想インフレ率)を差し引いた金利を指します。2021年のインフレ率は0%~0.5%程度でしたが、この時の借入金利が例えば1%ならば、実質金利は1%~0.5%ということになります。一方、現在のインフレ率は2%台の前半ですので、例えば1.5%で借り入れをしたとしても、実質金利は-0.5%となり、実質金利を比較すれば現在の方が低くなります。
このように、以前の原稿で書いたような賃料の上昇と、今回お伝えしたいっそうの低金利(金融緩和の継続と実質金利の低下)の状況が、金利上昇(に見える)状況下でも不動産投資市場が活況な理由でしょう。
賃料の上昇は25年も続き、また金利の上昇は先にのべたように上昇しても小幅と思われますので、不動産投資市場は引き続き活況となりそうです。