第51回「不動産投資家調査」(調査時点:24年10月)が11月27日に公表されました。
今回はこの調査結果をもとに、最新のキャップレートの動向を賃貸住宅にフォーカスして解説します。
歴史的な低水準のキャップレート
全国的に各アセットクラスのキャップレートは史上最低水準の状況が続いています。
特に東京都市部のオフィスや賃貸住宅は、過去を振り返っても最も低い状況が1年以上続いており、不動産投資は歴史的にみても好調が続いている状況といえます。
投資用不動産の収益還元法での査定とキャップレート
2000年代に入って以降の不動産投資における、適正な(目安となる)不動産価格は、収益還元法に基づき算定されることが一般化しました。
収益還元法は、「DCF法により将来に渡り得られると見込まれる収益を還元利回り(r)で割る」という手法ですが、「この際の「r」をどの数字を用いるのか」は議論の分かれるところですが、現実的には、目安としてキャップレートを用いることが多いようです。
また、不動産は個別性が強いため、物件ごとの還元利回りを算出することは難しくなり、そのため目安としてキャップレートが用いられことが一般的と思われます。
キャップレートとは、「不動産投資における利回りの指標」の一つで、投資家の「期待利回り」(=これくらいの利回りがあればいいな)のことを指します。
当然ながら、キャップレートは、エリア(立地)や不動産の種類(オフィスビル、ワンルームマンション、ファミリーマンション、商業施設など)によって、変わってきます。
計算式に当てはめれば、収益が一定として、利回りが下がれば価格は上昇局面(投資意欲旺盛)ということができ、逆に利回りが上がれば、価格は下落局面(投資意欲減退)にあると言えます。つまり、「キャップレートの推移をみれば、投資意欲がうかがえる」ということができます。
賃貸住宅ワンルームタイプのキャップレート
賃貸住宅の期待利回りは、全国的に最低水準が続いていますが、前回調査(24年4月調査、5月公表)と比較すれば「横ばい」が続いている状況でした。
賃貸住宅のキャップレートが全国で最も低いとされるエリアである東京城南エリアでは、前回調査、前々回調査と同じで3.8%(調査開始以降最低値)でした。
この調査におけるワンルームタイプの想定は25~30㎡、築5年未満、駅徒歩10分以内、総戸数50戸程度の1棟物件の想定です。
賃貸住宅投資の期待利回りは引き続き最低の水準がつづいており、24年7月末の日銀金融政策決定会合で政策金利は16年ぶりに上昇しましたが、それでも賃貸住宅への投資意欲は引き続き旺盛であり、賃貸住宅の取引価格は引き続き上昇基調にあるということになります。
新築物件においても、土地価格、建物建築価格とも、相当上昇していますが、それでも投資意欲が旺盛な状況が伺えます。
全国主要10都市では、7都市が横ばいとなりましたが、横浜・京都・広島の3都市では0.1ポイント低下しました。
期待利回りが最も低い地域の一つで、立地プレミアムのベースとされる東京城南地区(目黒区・世田谷区、渋谷・恵比寿へ電車などで15分圏内想定)では、キャップレートは3.8%で前回と同じ、想定物件の取引利回りは3.4%となっており、前回は3.5%でしたので、「期待する利回り」(=キャップレート)は3.8%と変わらないものの、実際の取引で想定されている利回りは低くなっています。
つまり、「なかなか、期待する利回りの物件は少なく」、「多少利回りが低くても投資している」というような状況が進んでいるということが伺えます。
また、東京城東地区(墨田区・江東区、東京・大手町まで電車などで15分圏内想定)では、期待利回りは3.9%、取引利回り3.6%でこちらも前回と同値となりました。
都市部における賃貸住宅需要は安定が続く見通しのため投資意欲は高いものの、なかなか期待するような利回り物件が少なくなっているようです。
また、「期待利回り」と実際の「取引利回り」には、0.4%(城南地域)、0.3%(城東地域)の開きがあり、「投資家の投資意欲の旺盛さ」が伺えます。
ファミリータイプの状況
一方で、賃貸住宅(1棟)のファミリータイプ(想定は広さ50㎡~80㎡、それ以外はワンルームタイプと同じ)のキャップレートは、調査10都市のうち9都市が横ばいとなりました。
前回調査では5都市(仙台・京都・大阪・神戸・福岡)でいずれも0.1ポイント低下していましたが、ファミリータイプのキャップレートは全国的に横ばい傾向になっています。
最も低い東京・城南地区をみれば引き続き過去最低が続き、前回調査・前々回調査と同様にワンルームタイプと同じ値となっています。
また、想定物件の実際の取引における利回りは3.5%で、こちらも前回調査と同じですが、前述のようにワンルームタイプは少し下がりましたので、ファミリータイプは天井感がはっきりしてきました。
金利が上昇基調でも投資意欲は高い
24年の前半は、金融政策に変更がありました。マイナス金利の解除、政策金利が0.25%へということで、金融緩和は続いているものの、「金利のある世界」となりました。
この「一連の金融政策の変更により、不動産投資市場に影響があったか」の質問に対して、回答の2/3が「不動産投資市場に影響はなく、へんかは生じていない」と回答しています。
また、「今後1年間の不動産投資に対する考え方」についての回答では、「新規投資を積極的に行う」の回答は94%(前回は94%)と1%低下しましたが、「当面、新規投資を控える」の回答では、前回は5%でしたが今回は2%となりました。
金利は多少上昇しましたが、依然金融緩和状態は維持されており、不動産投資は好調な状況が続いています。