不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

収益区分マンションはどんなタイミングで売却するといいのか~資産の組み換えの第一歩~

不動産投資家の方とお話して、最近よく聞くのが「複数保有していた収益区分マンションをいくつか売却して、資産目減りの少なそうな超一等地物件を新たに購入した」という話です。
では、どんなタイミングで売却して、「超優良物件」に資産を組み替えるといいのでしょう。
今回の原稿では、「資産を組み替えるタイミング」のうち、まず売却のタイミングについて考えてみましょう。

ここでは、個人で収益物件保有している前提で解説します(法人での場合は、税などの点で少し異なる点もありますので、ご注意ください)。

資産組み換えの背景

資産の組み換え、つまり保有する一部物件(あるいは全部)を売却して、別の物件を購入する方が増えている背景として、

①首都圏全体的に収益不動産とくに収益区分マンションの需要が旺盛で、売買価格が大きく上昇していること。
②新規収益区分マンションの供給が少なく、中古物件も価格が大きく上昇していること。
③保有している収益物件が購入後5年を経過し、譲渡所得税率が変更となっていること。

そんな状況の中で、中古収益区分マンションの売却価格が高いため、ここで利益確定をしておこうという思惑もあるのでしょう。
そして、売却資金と返済を行うことで空いた与信枠を活用して、資産価値が長期に渡り保持できると思われる、出物が少ない超優良一等地物件に資産を移しているということです。

保有期間と税率

買い替えのタイミングを何で考えるか。「少しでも高く売りたい」という観点では、市況は重要です。
しかし、個人が保有する収益不動産の売却においては、「築年数」と「保有期間」は、大きな要因となります。
 
まず、「保有期間」の観点では、上記③での述べた税率の変更は大きな要因です。不動産を譲渡する際に利益(譲渡益)が出れば、それに対して税金がかかります。
譲渡益の計算は各種経費などを除いて概要を説明すれば、ただ単に、(売却時の価格―購入時の価格)ではなく、売却価格から、購入時の価格と毎年経費として落としてきた建物の減価償却を勘案して(細かい計算となるため、ここでは省略)、引いたものとなります。

5年以下(注:売却した年の1月1日時点での保有期間)の短期譲渡所得に対しては、所得税30%+住民税9%の合計39%がかかります。
5年(注:売却した年の1月1日時点での保有期間)を超えると長期譲渡所得となり、所得税15%+住民税5%の合計20%となります。
ここで、注意していただきたいのは、例えば、2019年2月1日に購入した物件を24年3月1日に売却したとして、保有期間は5年1カ月ですが、上記注でお伝えしたように、1月1日時点での保有期間なので、4年11カ月となります。

保有期間と修理修繕

どんなマンションでも築10年を超えたあたりから、少しずつ痛みが目立つようになり、また12・13年を超えると、エアコンや給湯器の取り換え、15年を過ぎれば、水廻り設備の取り換えが必要となってきます。入居者の使い方が云々ではなく、設備品の寿命ということになります。

一般的な収益区分マンションであるワンルームやコンパクトタイプでは、月々のキャッシュフローは、それほど多くのプラスはでません
(当たり前のことですが、かなり少ない投資のため、リターンやキャッシュフローも小さな額となります)。

そこに、これら修繕費はそれぞれ、15万~30万程度はかかりますので、仮に月1万円のプラスが出ていたとすれば、一気に2年分のプラスが飛んでいきます。
そう考えると、築年数10~12年くらいを目途に手放すと、修繕費などはあまりかからずに済みます。
また、築10年程度の物件は、買い手も買いやすい築年数とも言えます。

築年数と融資の関係

いうまでもありませんが、「保有している収益不動産を売却する」ということは、「新たな所有者、つまり「買い主を探す」ということです。
そのため、買い手の立場に立って考えてみれば「築年数が買い頃の物件」は、売りやすい物件ということになります。

収益区分マンションを購入する際に、多くの方は金融機関からの借入を行います。
実物不動産投資の最大と言ってもいいメリットである、「融資で投資を行う」を最大限利用したいものです。収益不動産への投資の場合は、キャッシュフローがよくなること、利息は経費となること、などから長期間の借入を行う方が有利とされています。

そう考えると、できる限り長期で借りられる物件、つまり築浅物件の方が良いとされます。最も築浅の物件は新築物件ですが、中古物件でも10年以下の物件ならば、優位性はあるでしょう。
金融機関の最大の融資年数は(借入者の年齢は考慮せず)、法定耐用年数(木造22年、軽量鉄骨27年、RC造47年)をベースにそこから築年数を引くパターンが主です。

しかし、最近では、いくつか収益不動産への融資に積極的な金融機関では、独自の耐用年数(的な年数)から築年数を引く年数を最大の融資期間としているようです。
超優良物件への資産組み換えの検討をされている方は、ぜひ、参考にしてください。タイミングは何より、重要です。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。