不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

最新の将来世帯推計と賃貸住宅需要の拡大見通し

【目次】

―世帯数はいつまで増え続けるのか?
―なぜ、将来世帯推計は大きくずれたのか?
―20年以上前から最多世帯類型は単独世帯
―なぜ、単独世帯は増えているのか
―単独世帯が増えれば、賃貸住宅需要は増えるという事実

10年以上、我が国の人口は減少が続いていますが、その一方で世帯数は増加を続けています。国勢調査では、調査開始(大正9年)から、最新の2020年調査まで世帯数は一度も減ることなく増えています。
1世帯1住居を基本に考えれば、「住宅需要は世帯の動向で決まる」ということになります。また、世帯の類型(単独・夫婦のみ・夫婦と子供など)により、求められる住宅は異なります。このように世帯の動向は、住宅需要・賃貸住宅需要に大きな影響を与えます。
 
今回のコラムでは、5年ぶりに国立社会保障・人口問題研究所より公表された「将来世帯推計(令和6年版)」を基に、我が国の世帯数や世帯の類型の将来像とそれに伴う住宅需要と賃貸住宅需要の見通しについて考えます

世帯数はいつまで増え続けるのか?

将来世帯推計は、5年ごとの国勢調査に基づきに国立社会保障・人口問題研究所が推計を行い公表されています。今回の公表分は、2020年国勢調査に基づいた2024年時点の推計で、前回公表分は、2015年の国勢調査に基づいた2019年推計ということになります。なお、将来世帯推計は、全国版が公表されその後遅れて都道府県別が公表されます(そのため、執筆時点では都道府県別は未発表)。

最新の将来世帯推計では、日本の世帯数は2030年頃にピークを迎え、その後わずかずつ減少する推計となっています。
しかし、この世帯数の将来推計を過去に遡ってみてみれば、推計のたびに少しずつズレが生じています。前回(2015年の国勢調査に基づく2019年推計)の将来推計では、世帯数のピークは2023年頃で5419万世帯とされていました。しかし、実際の世帯数は推計より大幅に増加し、2020年の国勢調査では5570万世帯となりました。最新の推計では、世帯数は今後も増え続け、ピークは2030年頃で5773万世帯となっています。つまり、ピークが7年程度遅くなったことになります。

なぜ、将来世帯推計は大きくずれたのか?

推計はあくまで推計ですので多少のズレはあります。しかし、何年かに1度という頻度で、繰り返し行われた推計で、それも直近の(前回の)推計から大きくずれた結果となった、あるいは前回と今回の推計で大きく変わった(前述の世帯数のピークが23年→30年と7年のズレ)、というのは、推計に際して余程大きな「想定外」の要因があったのでしょう。



その「想定外」とは、単独世帯が予想以上に増えたことと思われます。
単独世帯(1人暮らし)の世帯は1980年の時点では19.8%でしたが、2020の国勢調査では38.0%に急増しています。そして、将来推計ではこの傾向はさらに顕著となり、2050年には、単独世帯が全世帯の44.3%を占め、10世帯に4世帯以上は1人で暮らす世帯ということになります。

20年以上前から最多世帯類型は単独世帯

1980年時点では総世帯数3528万世帯のうち単独世帯は71万世帯でしたが、2020年の国勢調査では総世帯5570万世帯のうち211万世帯となっています。この40年間で総世帯数は1.55倍ですが、単独世帯は2.98倍となっています。また、1980年時点では、「夫婦と子」世帯が42.1%で最多類型でしたが、2020年時点では25.2%と約17ポイント減少しました。
単独世帯が最多類型となったのは2010年の国勢調査の時で、それ以降割合で見れば「夫婦と子」世帯は減少し、「単独世帯」は増え続けています。我が国では、すでに20年以上も前から、「最も多い世帯類型は単独世帯」ということになります。
さらに、2050年には単独世帯は44.3%で、夫婦と子世帯は21.5%となり、一段と世帯の「単独化」が進んでいくことになります。

なぜ、単独世帯は増えているのか

単独世帯増加の要因として、もちろん高齢化社会が進む中で、子どもが巣立ったあとの夫婦世帯における片方の死別が実数では多くなります。しかし、これは、ある程度予測されていたことです。

しかし、「想定以上の」単独化が進む最大の理由は、未婚化・晩婚化が進んでいることでしょう。生涯未婚率(50歳時点未婚率)は2020年の国勢調査では男性28.3%、女性17.8%となり、近年急上昇が進んでいますが、これがさらに上昇する見通しのようです。
別の角度から見ても、小世帯化は進んでいます。世帯の平均人員は、一貫して減り続けおり、1980年代は3人を超えていましたが、2020年には2.21人となっていました。今後も一貫して減り続け、2033年には初めて2人を下回り、2050年以は1.92人にまでなる見通しです。

単独世帯が増えれば、賃貸住宅需要は増えるという事実

単独世帯の多くは賃貸住宅に住んでいるというのは、周知のとおりと思います。最新の2020年国勢調査によれば、全国では単独世帯の63.7%が賃貸住宅(民営・公営)に住んでいます。これを都市部でみれば単独世帯の7割を超えます。例えば、東京23区では単独世帯のうち74.1%が、大阪市では76.1%、名古屋市では75.5%、福岡市では83.4%の世帯が賃貸住宅に住んでいます。
将来にわたり単独世帯の増加が見込まれるということは、単身用の賃貸住宅需要が増えるということになります。特に都市部においてのワンルームタイプやコンパクトタイプの賃貸マンションのニーズは安定している状況が続く可能性が高いと言えるでしょう。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。