不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

東京圏の地価公示分析 ~地価上昇のスピードからはバブルとは言えない~

【目次】

―東京圏全体の地価公示の状況
―東京圏住宅地の状況
―東京圏商業地の状況
―地価公示の目的と他の地価との違い
―いまはバブルか?バブル期とミニバブル期との比較
―地価からみる今後の投資用のマンションのトレンドは?

首都圏のマンション価格は分譲マンション・投資用マンションとも上昇しています。
実需物件では、都市部に供給が集まる新築マンションはもとより、中古マンションにおいても都心では平均1億円を超える水準となってきました。
中古マンションは当時「異次元」と言われた金融緩和政策が始まった2013年を100とすれば、24年1月には190程度、約2倍の水準となっています。

本サイト別の原稿でもお伝えしましたが、投資用マンション価格も2013年からジワジワと上昇を続けており、投資用マンションのみのデータはありませんが、少なく見てもこの間に1.5倍、中には2倍を超えるような地域もあるようです。
「史上最高水準のマンション価格」という言葉が当たり前になってきた、そんな中で、不動産市況を映し出す最新の地価が公表されました。
3月26日に国土交通省から2024年1月1日時点の地価公示が発表されました。
全国の全用途(住宅地・商業地・工業地・宅地見込み地)平均は2.3%の上昇となり、昨年は1.6%、一昨年は0.6%でしたので、全国的に地価上昇が続いており、上昇幅も大きくなってきているようです。

今回のコラムでは、最新の地価公示とくに東京圏の地価を分析してみたいと思います。

東京圏の状況(全体)

東京圏は、東京都区部、多摩地区、神奈川県の一部(横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市など)、千葉県の一部(千葉市、市川市、船橋市、浦安市など)、埼玉県の一部(さいたま市、川越市、川口市、越谷市など)、茨城県の一部(取手市、守谷市など)です。
東京圏では、全用途平均で+4.0%(前年は+2.4%、前々年は+0.8%)、住宅地は+3.4%(前年は+2.1%、前々年は+0.6%)、商業地は+5.6%(前年は+3.0%、前々年は+0.7%)となりました。いずれも3年連続で上昇幅が拡大しました。
一都三県は住宅地・商業地とも全て上昇、また連続して上昇幅も大きくなり、好調が続いています。
特に再開発が進んでいる地域では、かなりの上昇となっています。

東京圏 住宅地の状況

東京都区部の勢いは強く、23区平均の住宅地上昇率は+5.4%(前年は+3.4%)で、一昨年・昨年に引き続き23区全てで上昇、また上昇幅も全ての区で拡大しました。
上昇率が最も高かったのは豊島区で+7.8%(前年は+4.7%)、続いて中央区+7.5%(前年は+4.0%)、文京区+7.4%(前年は+4.4%)となっています。
逆に、上昇率が最も小さかったのは世田谷区+4.0%(前年は+2.3%)、練馬区+4.0%(前年は+2.8%)で、続いて、葛飾区+4.2%(前年は2.8%)となっており、比較すれば戸建住宅の多い地域の伸びが低くなっています。

また、都心での住宅価格高騰を受けて、周辺地の住宅地地価の上昇が顕著となっています。
子育てしやすい市として名高い流山市、川を渡ればすぐ東京都である市川市では、住宅地地価は10%を超える上昇となり、現在の住宅事情が色濃くでた格好となりました。

東京圏 商業地の状況

商業地では、23区平均では+7.0%(前年は3.6%)で、2年連続で全23区の変動率がプラスとなりました。
再開発が増えており、新たな商業施設が誕生、またマンションとの一体開発も増えています。商業地におけるマンション用地としての入札案件も多いようで、こうしたことが商業地地価上昇の要因の1つでしょう。
商業地で上昇率が最も高かったのは台東区+9.1%(前年は+4.1%)、次いで荒川区+8.3%(前年は5.2%)、中野区+8.2%(前年は5.2%)となっています。
台東区は国内外の観光客に人気の浅草があり、荒川区は成田国際空港へのアクセスの良さが再認識されたことが要因と思われます。

地価公示の目的と他の地価との違い

毎年大きくメディアでも取り上げられる地価公示ですが、国土交通省が主体となって行うこの地価調査は、どんな役割を担っているのでしょうか。
地価公示法によれば、地価公示で算定される地価(=公示地価)は、①一般の土地取引の指標(売り手にも買い手にも偏らない客観的な価値)として、②公共事業などでの取得価格算定の規準とされることを目的とされています。
ここでの土地価格は、建物がある場合や、使用収益を制限するもの(例えば、抵当権や地上権など)がある場合は、それらがないものとして(=つまり更地として)算定されます。

毎年公表される地価は、国土交通省土地鑑定委員会が調査主体の公示地価(3月に公表:1月1日が価格時点)、国税庁が公表する路線価(7月に発表:1月1日が価格時点)、と基準地価(9月に公表:7月1日が価格時点)ありますが、このうち路線価は公示地価をもとに算定されます。

一方、基準地価は各都道府県が調査主体(そのため都道府県地価調査とよばれ、調査地点数も多くなります)で、ちょうど年半ばの地価の算定という位置づけです。

いまはバブルか?バブル期・ミニバブル期との比較

1990年以降でみれば、91年には全国全用途平均が前年比+11.3%となり最も大きく伸びた年になっていますが、24年はそれに次ぐ2.3%の上昇率でした。
ミニバブル期の最終局面の2008年は前年比+1.7%でしたので、現在はミニバブル期を超える状況となっていることがわかります。

こうしてみれば、80年代後半から91年までの地価上昇が凄く、また全国に渡るものであり、後年「バブル」と呼ばれたことが理解できます。
また、ミニバブル期(2005年~08年)は東京など大都市部の地価は上がりましたが、地方への波及はあまり見られず、全国平均の地価が伸びなかったものと思われます。
近年の地価上昇は、都市部はもとより地方にも波及しており、さらに「ジワジワ、ゆっくり」、「長期に渡り」(コロナ禍は除く)、という特徴で、「バブル」とは言えない状況でしょう。

地価からみる今後の投資用のマンションのトレンドは?

このように住宅地・商業地とも首都圏では地価上昇が続いており、さらにマンション適地の売り出しが少ないため入札が激化しており、どのデベロッパーもマンション用地の仕入れには苦労しているようです。
また、建築工事費用も上昇を続けており、今後もさらに上昇する見通しです。このようなことから、投資用のマンションのトレンドは2つに分かれると思われます。


1つ目は、より都心から離れたエリアでの供給が増えるというトレンドです。相対的に土地価格が安い地域でかつ鉄道利便性のよい地域、すでに増えている横浜市や川崎市に加えて、例えば市川市や船橋市といった千葉県の東京隣接地域などでも増えると思われます。
もう1つのトレンドは、投資用マンションにおいても都心の高級物件が増える可能性です。
数年前から分譲マンションでは、このような傾向が続いており、「たとえ高くても資産価値を分かる方が買う」という状況となっています。同じようなトレンドが投資用マンションにも見られ始めることでしょう。

25年に公表される地価公示においても、よほどの金利上昇などがない限り、住宅地、商業地もより今年以上に大きな地価上昇が見られるでしょう。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。